はじめに
Excelには様々な統計関数が用意されていますが、T.INV関数は、t分布に基づいて左側確率(累積確率)から対応するt値を計算する際に役立ちます。t分布は、母集団の標準偏差が未知の場合に、標本平均の分布を推定するために使用され、特に小標本の場合に重要です。この記事では、T.INV関数の基本的な使い方から、画像にある例、そしてExcelのバージョン情報までを詳しく解説します。
t分布とは?
t分布は、正規分布に似た左右対称の分布ですが、正規分布よりも裾が重い(裾が広くなっている)という特徴があります。これは、母集団の標準偏差が未知であるために生じる不確実性を反映しています。t分布は、自由度と呼ばれるパラメータによって形状が変化し、自由度が大きくなるにつれて正規分布に近づいていきます。
T.INV関数とは?
T.INV関数は、t分布における左側確率(累積確率)に対応するt値を返します。これは、「あるt値x以下の確率が指定した確率になるようなxの値」を求める関数です。
基本的な構文
Excel
=T.INV(確率, 自由度)
各引数の意味は以下の通りです。
- 確率(必須): 求めたい左側確率(累積確率)を指定します。0から1の間の数値を指定します。
- 自由度(必須): 分布の自由度を指定します。正の整数である必要があります。
Excelバージョン情報:T.INV
T.INV関数は、Excel 2010で導入されました。それ以前のバージョンでは、TINV関数を使っていました。TINV関数は互換性のために残されていますが、新しいバージョンではT.INVを使用することを推奨します。
画像例の解説
画像では、以下の設定でT.INV関数を使用しています。
- 左側確率: セルA2に0.8が入力されています。
- 自由度: セルB2に10が入力されています。
- 数式: セルC2には以下の数式が入力されています。
Excel
=T.INV(A2,B2)
この数式を分解して解説します。
- A2: 左側確率(0.8)を指定しています。
- B2: 自由度(10)を指定しています。
数式の動作
この数式は、「自由度が10のt分布において、あるt値x以下の確率が0.8になるようなxの値」を計算します。結果として、セルC2には0.879…(約0.88)と表示されています。これは、自由度10のt分布において、0.88以下の値を取る確率が約80%であることを意味します。
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TINV関数(古いバージョン)
Excelの古いバージョン(Excel 2007以前など)では、TINV関数を使用していました。TINV関数は両側確率からt値を求める関数です。左側確率からt値を求めるには、TINV(2*(1-確率), 自由度)
と計算する必要がありました。例えば、左側確率が0.8の場合、両側確率は2*(1-0.8)=0.4なので、TINV(0.4, 10)
とすることで、T.INV(0.8, 10)
とほぼ同じ結果が得られます。ただし、厳密にはTINVは両側確率を扱う関数なので、T.INVを使用する方が適切です。
T.INV.2T関数との違い
T.INV.2T関数は、両側確率からt値を求める関数です。T.INV関数は左側確率からt値を求めるので、目的が異なります。例えば、両側確率が0.1の場合、T.INV.2T(0.1, 10)
は、t値の絶対値がある値より大きくなる確率が0.1になるようなt値を求めます。
例:信頼区間の計算
例えば、ある製品の平均重量を推定するために、10個の製品を無作為に抽出し、重量を測定した結果、標本平均は105g、標本標準偏差は5gでした。90%の信頼区間を計算する場合、自由度は10-1=9です。
まず、α/2を計算します。信頼度が90%なので、αは1-0.9=0.1、α/2は0.1/2=0.05です。
次に、T.INV(1-α/2, 自由度)
でt値を求めます。つまり、T.INV(1-0.05, 9)
= T.INV(0.95, 9)
を計算します。この結果は約1.83です。
信頼区間は、
標本平均 ± (t値 × 標本標準偏差 / √標本サイズ)
で計算されるので、
105 ± (1.83 × 5 / √10)
となり、約102.1から107.9が90%信頼区間となります。
T.INV関数の注意点
- 確率は0より大きく1より小さい数値でなければなりません。
- 自由度は正の整数でなければなりません。
- 引数に数値以外の値を指定すると、エラー値 #VALUE! が返されます。
- 確率が0以下または1以上の場合、エラー値 #NUM! が返されます。
- 自由度が1未満の場合、エラー値 #NUM! が返されます。
まとめ
T.INV関数は、t分布における左側確率から対応するt値を簡単に計算できる非常に便利な関数です。信頼区間の計算などで頻繁に使用されます。最新のExcelを使用している場合は、T.INV関数を使用し、古いバージョンを使用している場合でも、できる限りT.INV関数を使用するように、計算式を工夫することを推奨します。
この解説で、T.INV関数について、より深く理解できたかと思います。この情報を活用し、Excelでのデータ分析をより効率的に行いましょう。
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